COLUMN

タンカレー「No.10(TEN)」

スペック

【生産地】 英国

【生産者】 CHARLES TANQUERAY & CO

二十歳の頃

亡命ユグノーの孫

タンカレーを設立したチャールズ・タンカレーは、フランスからの亡命ユグノーの孫として、1910年にイギリスで生まれました。
祖父であるデイヴィット・タンカレーは、王室御用達の銀細工職人でありながら牧師でもあり、父も大叔父もまた牧師という家系でした。
しかしチャールズ・タンカレーは、聖職者になることを良しとせず、「最高のジンを造る」という夢を追う道を選びます。
そして1830年、ロンドンのブルームズベリーに、ジンの蒸留所を開設します。
まだ20歳の時のことでした。


チャールズ・タンカレーは、このブルームズベリー蒸留所でジン造りの実験を繰り返しました。
その結果、より純粋で軽いジンを精製するために、4段階の蒸留を行うというタンカレー独自の手法を編み出しました。
特徴ある味わいを生み出すボタニカルの調合の比率が完成したのもこのときです。
世界中の素材を試し続けたチャールズは、大胆かつ爽快感のある味を生み出すことに成功しました。
これらの醸造法や調合のスタイルは、180年経った現在においても忠実に守られています。

世代交代

1830年代に、パイナップルと2本の斧がデザインされたマークが採用され、ボトルの蓋に描かれるようになりました。
スパイスを加えたジン「マラッカ」もこの頃に作られたもので、これは1999年に再現されました。
1840年代には、タンカレーは香辛料の農場主や貿易商人の手によってジャマイカにまで拡散していたようです。
当時の難破船から発見された壷を復元すると、「タンカレー・ジン」との表記が発見されました。

1868年、チャールズ・タンカレーは58歳で世を去ります。
そして、息子のチャールズ・ウォー・タンカレーが、父が創業した時と同じ20歳で跡を継ぎました。

戦線拡大

Laphroaig Whisky Distillery

20世紀を控えた1898年、タンカレー社は同業のゴードン社と合併し、タンカレー・ゴードン社となりました。
これを機に、拠点を創業の地であるブルームズベリーから移すこととなりました。
1922年にはタンカレー・ゴードン社もディスティラーズ社に吸収され、現在ではディアジオ社の傘下となっています。

第二次世界大戦はタンカレーにも大きな被害を与えました。
1941年、ドイツ空軍(ルフトバッフェ)によって蒸留所が爆撃され、蒸留器はただ一基を除いて破壊されてしまいました。
しかし、このことが後年に新たな物語を生むことになります。

Strangers in the Night

踊る大紐育

戦後になると、新しく採用された緑色のボトルと共に、タンカレーは急速に人気を博してゆきます。
ただし、それは高級品としてではなく、1950、60年代の反骨的な若者文化の象徴という位置づけでした。
元来、ジンを飲むことは「素行が悪い」と見なされがちであったため、時代の潮流に押し上げられたのでした。
歌手のフランク・シナトラも、タンカレーを愛飲していました。
アメリカでは、1962年には26,000ケースが販売されましたが、翌年には47,000ケースにまで跳ね上がりました。


1979年には、世界での出荷数が100万ケースに達しました。
1980年代からは各種の賞を受賞するようになり、2000年にはタンカレーは高級ジン「NO.10(TEN)」を世に出します。
そして2006年、出荷数は遂に200万ケースを超えました。

4度の蒸留とボタニカルの香り

タンカレーの製法の最大の特徴は、蒸留を4度行うことです。
3度の蒸留でスピリッツの純度を上げ、最後の蒸留でボタニカルの香りを付けることになります。
通常、スピリッツの精製のための蒸留は1度で十分であり、何度も行われるものではありません。
また、蒸留は連続式の蒸留器で行われるところを、わざわざ非効率な単式蒸留器を用いています。

量より質を追求するために、時間と手間のかかる手法を用いているのです。


ボタニカルは、ジュニパー・ベリー、コリアンダー、アンゼリカの3つを中心に、20種類以上の素材が用いられています。
ジュニパー・ベリーとは杜松(ねず)の実のことで、イタリアのトスカーナ地方が産地です。
収穫量の10%まで選別されたジュニパー・ベリーを、18ヶ月間熟成させてから用いています。
コリアンダー(香草)は、ウクライナのクリミア半島から、アンジェリカ(ハーブ)はドイツのザクセン地方からのもので、いずれも手摘みで採集されています。
これらのボタニカルの配合のレシピは、カンタレー家の現当主であるジョン・カンタレーを含め、世界で3人だけしか知らないと言われています。

 

こうして出来上がったタンカレーのジンは、すっきりとしたキレのある味わいに、控えめな香味が含まれています。
特徴的な緑色のボトルは、1951年に採用されたもので、18世紀のロンドンの消火栓がモチーフ。
ボトルには赤い封蝋がデザインされていますが、品質を保証するという意味が込められています。

NO.10(TEN)

2000年に誕生した、プレミアム・ジン「NO.10(TEN)」。
この名前は、1941年のドイツ空軍(ルフトバッフェ)による爆撃で、唯一破壊を免れた蒸留器が「第10番」であったことに由来します。
(また、英語のスラングでは、「最悪」という表現を「ナンバー・テン」と言います。
私見ではありますが、最高級のお酒にわざわざ「NO.10」と名づけることは、ジンという決して行儀が良いわけではないお酒としての反骨精神も込められているのかも知れません。)


通常のジンは、品質を安定させるために複数の蒸留器を用います。
しかしNO.10(TEN)は、今でも小型の「第10番」蒸留器のみを用いて蒸留されています。
また、ボタニカルには乾燥品ではなく生のジュニパー・ベリーを使用しています。
他にもホワイト種のグレープフルーツやオレンジ、ライムなどのも用いられており、重厚な風味はすっきりとしたタンカレーよりもむしろボンベイ「サファイア」に近いかもしれません。


MIDORIでご用意しているジンでは、ボンベイ「サファイア」と人気を二分している「NO.10(TEN)」。

あなたのお好みはどちらでしょうか?

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